著書:「聖書は動物をどう訳してきたか」
はじめに
日本における聖書の本格的な日本語訳は、 1880 年 ( 明治 12 年 ) に始まるいわ ゆる翻訳委員会による新約聖書日本語訳を発端とする。明治期における聖書の翻訳 は、このようなプロテスタントミッションによる公的な活動に先行して、ギュツラフ訳 (1837 年・天保 8 年頃と推定 ) 、ベッテルハイム訳 (1855 年・安政 2 年 ) などに始まる個人部分訳があり、公用聖書と個人訳聖書とが平行<して刊行 されつづけてきた。
さて、聖書にはさまざまな動物が現れる。なかでも旧約聖書には豊富な動物 が見られ、これを伝えてきた人々との多彩で、、生き生きとした関わりをうかが い知ることができる。しかし、へブル語 ( 旧約 ) 、アラム語 ( 旧約 ) 、ギリシア 語 ( 新約 ) で書かれた動物名を他の言語に翻訳する場合、「それが何を指すの か」という問題が発生する。とりわけ、動物の生存圏の違い、時代の変遷にともなって、聖書に記載された動物名称の他言語への翻訳は、一部においては絶 望的なまでに困難となっている。
本書は、文語訳聖書に始まる公用日本語訳聖 書における動物名称の翻訳語の変遷を、動物ごとに整理したものである。それぞれの聖書が、一つ一つの動物名称について、信頼性の高い典拠に基づき、かつ主の示し給う御言葉の文脈を最も的確に表現できるような訳を充てていることがわかる。なお、本書では、訳語を比較するうえで公用日本語訳聖書として文語 訳、口語訳、新改訳、新共同訳、バルパロ訳をとりあげているが、適宜、他の 日本語訳聖書 ( 個人訳含む ) 、英国欽定訳聖書をはじめとする各種欧米語訳聖書などを参考にしている。
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